相続のリアル Part2

今回「相続のリアル Part2」では、遺言書をどうかくべきか、また法定相続人を確定するための戸籍の押さえ方をお伝えします。

遺言書はありますか?

まず遺言書があるかどうかを確認します。遺言書があれば、基本的にはそれに従って相続手続きをすることになります。被相続人が遺言書を書かれていた場合、通常は誰かに知らせているか、もしくはエンディングノートに記録を残しているケースが多いです。

遺言書の種類は、➀自筆証書遺言 ②公正証書遺言 ③秘密証書遺言の3種類があり、状況や目的に合わせて自分に合った方式を選択することができます。
遺言書は正しい形式で作成しないと遺族間で後々トラブルの種になるため、遺言書を書く前には事前にしっかりと正しい知識を身に着け、内容に不備がないように慎重に執筆することが大切です。
しかしまだ誰にも伝えていないうちに急死されたり、何かの事情で相続人と疎遠になっていたりで遺言書のことがわからない場合もあります。そのようなときはどうしたら良いのでしょうか?
②の公正証書遺言の場合、全国どこの公証役場からでも遺言の検索システムで調べることができます。相続人が、亡くなった方の死亡の事実を確認できるもの、亡くなった方との関係がわかる戸籍謄本等、調べる人の本人確認ができるものを持参して近くの公証役場に行き、調べてもらうことができます。ただし、検索できるのは、平成元年以降に作成されたものに限ります。

①の自筆証書遺言の場合も、通常はどなたかにその存在を伝えているケースが多いですが、書いたらしいが現物が見つからない場合は、現実的にはひたすら探すしかないということになります。ただし、2020年7月10日以降に作成した場合は、法務局の自筆証書遺言書保管制度(以下単に「保管制度」という)を利用している場合もあります。その場合、相続人等は遺言書情報証明書の交付の請求をすることにより、保管の有無や内容の証明書を取得することができます。これは、「遺言書保管所」である法務局であれば全国どの保管所でも交付請求できますが、遺言者がすでに亡くなられている場合に限ります。

保管制度を利用していない自筆証書遺言の場合は、見つかった場合でも開封前に家庭裁判所の検認手続きが必要になります。検認手続きをしていないものや検認証明書のないものでは、金融機関、法務局などでは手続きをしてくれません。また、民法でも、勝手に開封したものは5万円以下の過料に処すということになっております。開封したことによって、直ちに無効になるわけではありませんが、そもそも検認は、遺言書の偽造・変造を防ぐための手続きですので、開封によりそれらが疑われ必要のなかった紛争を招くことにもなりかねません。遺言書を預かっている、または発見したなどの場合は必ず検認手続きを受けてください。

なお、前述の保管制度を利用している自筆証書遺言は、検認は不要です。

②の公正証書遺言の場合は、ほとんどが遺言のなかで「遺言執行者」を指名しています。指名を受けた遺言執行者が、相続人に対して就任を引き受けるという承諾をすると、遺言執行という任務を行うことになります。遺言執行者は必ずおかなくてはいけないものではありませんが、遺言の内容によっては必要となる場合があります(子の認知や相続人の廃除など)。①の自筆証書遺言などでもともと遺言執行者を指名していない場合や、指名された遺言執行者が就任を断るなどでいなくなったときは、利害関係人の請求によって家庭裁判所は遺言執行者を選任することができます。「遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する(民法第1012条抜粋)」と、遺言執行者はたいへん大きな職務権限をもっており、相続人でも、勝手に遺産を処分するなどして遺言の執行を妨害するような行為はできません。

大切なスケジュール

相続の手続としては、まず相続人の確定、相続財産の確定、どのように分けるかがポイントになるわけですが、その前に確認しておかなければならないスケジュールがあります。
下記は民法第九百十五条の相続の期間と放棄すべき期間の箇所です。

(相続の承認又は放棄をすべき期間)
第九百十五条  相続人は、自己のために相続の開始があったことを知ったときから三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
相続人は、相続の承認又は放棄をする前に、相続財産の調査をすることができる。

下記は相続税法第27条です。

第二十七条
相続又は遺贈により財産を取得した者および当該被相続人に係る相続時精算課税適用者は、当該被相続人からこれらの事由により財産を取得したすべての者に係る相続税の課税価格の合計額がその遺産に係る基礎控除額を超える場合において、その者に係る相続税の課税価格に係る第十五条から第十九条まで、第十九条の三から第二十条の二までおよび第二十一条の十四から第二十一条の十八までの規定による相続税額があるときは、その相続の開始があつたことを知った日の翌日から十月以内に課税価格、相続税額その他財務省令で定める事項を記載した申告書を納税地の所轄税務署長に提出しなければならない。

つまり相続の承認・放棄などは、相続の開始があったことを知ったときから3カ月以内に申し立てをしなければなりませんし、相続税が発生する可能性がある場合は、10カ月という申告の期限も常に頭において手続きを進める必要があります。

そして、承認や放棄などの判断をするためにも相続人は誰なのか、相続財産は何がいくらあるのかを調査しなければなりません。

相続人の確定

相続があったとき、相続人になれる人は民法によって下図のように範囲と順位、法定相続分、遺留分が定められています。

InheritanceCoverage,Order and amount

InheritanceAmount

次に、相続人を確定するために、被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍、除籍、改製原戸籍の謄本(以下「戸籍謄本等」という)をすべて集める必要があります。

まず、現在の本籍がある市区役所・町村役場へ出向きます。遠方の場合は、郵送による請求もできます。被相続人の戸籍謄本等は、配偶者または直系卑属、直系尊属しかとることができません。役所によって書式は違いますが、「相続のために、被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍が必要」と話すと、その役所で取れる戸籍謄本等をすべて出してくれます。その役所ですべて取れない場合は、大抵の場合、次にどこの役所でとればいいかを教えてくれます。
このようにして、一番最近の死亡時の戸籍からさかのぼって、出生までの戸籍謄本等を取得します。
すべてを取得したら、戸籍を読んで相続人を確定するという作業になります。戸籍を調べると、じつは今の配偶者と結婚する前に離婚されていて、前の配偶者との間にお子さんがいたことを相続のときに初めて知った、などというのはそれほど珍しい話ではありません。しかし当事者である相続人からしたら、その人も相続人となるわけですから、遺産分割協議なども一緒にしなければならず、まして今まで知らなかったということですと、所在から探さなければならないこともあり、一気に手続きが困難な状況になる場合もあります。相続手続きをするにあたっては、金融機関や不動産登記の手続きをする法務局に対し、相続人であること、ほかに相続人がいないことを公的に証明する必要がありますので、このような手続きが必要となるわけです。

代襲相続とは

相続人が、被相続人より先に死亡している場合はどうなるのでしょうか。下図でご説明いたします。

InheritanceRelations

相続人である子Bが、被相続人Aより先に死亡している場合、Bの子C、つまりAの孫が相続人となります。これを代襲相続と言います。法定相続分は、Aの配偶者1/2、C1/2となります。また、子Bに子どもがなかった場合、第2順位の直系尊属であるAの親になりますが、親もすでに亡くなっていれば、第3順位であるAの兄弟姉妹D、E、Fが相続人になり、EがAより先に亡くなっていれば、Eの子G、Hが相続人になります。法定相続分はAの配偶者3/4、D、Fがそれぞれ1/12、G、Hがそれぞれ1/24となります。

G、HはAの甥姪にあたりますが、甥姪の子は代襲相続人にはなれません。そして代襲相続人を確定するために、Aより先に亡くなっているBの出生から死亡までの連続した戸籍謄本等(実際には、Aの出生から死亡までの戸籍のなかに、Bの出生から、Aが戸籍の筆頭者である戸籍から除籍になるまでのものはあるのでそれ以降、死亡までとなります)、Bに子がないケースでは、Eの同様の一連の戸籍謄本等が必要となります。

すでにご存知だとは思いますが、本籍は住所と違います。表記だけでなく、全く住んでいるところと違う、住んだこともないところの場合もあります。そもそも本籍地というのは、日本の領土内で、特定できる場所であればどこにおいてもよいことになっています。富士山や皇居を本籍にしている人もいるようです。

ここまでたどり着くのに、ものすごく手間がかかるものだとお感じになったと思います。その場合、プロである司法書士に法定相続人確定を依頼するのも一手段です。時間がない場合、その手間とコストを見極め、業務を依頼するのも良いのではないでしょうか。

ようやく相続人の確定ができました。次のPart3 では、具体的な財産の調査方法を見ていきます。