相続のリアル Part5

相続のリアルPart4 では、財産の調査―金融資産や動産、特に自動車の評価の仕方をご説明しました。これらができれば、相続財産はほぼ把握できたと言えるでしょう。動産は、自動車のほかに、書画骨董や宝飾品等貴金属なども対象となります。

金銭的な価値が低いものは、だいたいは親族間の形見分けで済んでしまうことが多いですが、高価なものの場合は、財産目録にいれておきます。またゴルフ会員権や貸付金などの債権も財産となります。

今回のPart5では、借入など負の財産がある場合と相続の承認、相続放棄などがどうなるか見ていきましょう。

負債はどのように評価するか

財産はプラスのものばかりではありません。マイナスの財産もあります。具体的には借入金や保証債務です。また、未払い税金、未払い経費(病院や施設等にいた場合など、通常は後日請求されます)などもあります。
住宅ローンがまだ残っている場合は通常団体信用生命保険に加入していますので、借主が被相続人となった場合は保証協会や保証会社がローンを肩代わりして、債務である住宅ローンが消滅します。
なお、身元保証人など身分関係に付随する権利義務などは財産ではないので、相続の対象とはなりません。

相続の承認および放棄

さて、相続財産の概要がわかったところで、相続をするかどうかを決めなければなりません。相続は権利ですので、するかしないかは自由意思で決めることができます。相続することを承認、しないことを相続放棄と言います。正確には承認して初めて相続人となり、遺産を受け継ぐということになります。 ここで、「相続のリアルPart2」の「大切なスケジュール」のところで掲載した民法の条文をもう一度確認しましょう。

(相続の承認又は放棄をすべき期間) 第九百十五条  相続人は、自己のために相続の開始があったことを知ったときから三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。 相続人は、相続の承認又は放棄をする前に、相続財産の調査をすることができる。

相続財産の調査について自分が調べた場合は、不動産・金融資産など何がどのくらいあるかということは把握できます。しかし、たとえば子の一人、被相続人と同居していた長男がすべてを握っていて教えてくれない、負債があるのかどうかもよくわからないというときは、預金通帳など財産の開示を要求することができます。これは、相続の承認や法規について定めた上記の民法第915条の2項で定められているからです。

相続財産のプラスとマイナスのすべてを相続する場合は、特に意思表示をしなくてもこの3カ月という期間の間に、次に述べる限定承認や相続放棄をしなければ単純承認をしたものとして取り扱われます。すべてを相続するということは、マイナスの遺産、たとえば借金のほうが多かったときは、相続した遺産からだけでなく自分自身の財産からも返済しなければならないということです。

限定承認とは

次に限定承認を見ていきましょう。これは条件付きで相続を承認するもので、プラスの財産よりマイナスの財産が多いときでも、遺産の範囲でしか返済しないというまさに相続を限定したものです。

貸した側は相続人に、貸し付けの一部の返済を求ることができなくなり、マイナスの財産が多い可能性があるが、はっきりわからないときに利用すると有用な方法です。ただし、限定承認は相続人一人一人が個別にすることはできず、全員が一致してしなければならないとされています。限定承認をする場合は、期限内に相続財産の目録を作成し、これを家庭裁判所に提出するとともに限定承認の申し立てをしなければなりません。

相続放棄とは

もう一つが相続放棄です。文字通りプラスの財産もマイナスの財産もいらないことを宣言することです。通常はマイナスの財産が多いことがはっきりしている場合に効果的な制度です。ただ、農家や商家などで、家業の存続のために事業の継承者にすべてを相続させることを目的に、事業継承者以外が皆相続放棄をするといったことも少なくないですが、相続放棄をしなくても、事業用の資産を分散しないようにすることは遺産分割協議などでも可能です。

相続放棄も、期限までに家庭裁判所に申し立てることが必要です。ただし、相続放棄は相続人の一人が単独でも行うことができます。相続放棄をすると、この相続人は、初めから相続人でなかったものとみなされます。

相続人が配偶者と複数のお子さんの場合、たとえば、お父さんが亡くなり、被相続人の配偶者であるお母さんと3人のお子さんが相続人だとします。このようなとき、お子さんから相続放棄をしようと思うけど…と言われることがあります。
たぶん、「子供たちは、皆不自由なく暮らせているから、一旦は年金暮らしのお母さんに全部相続してもらって、自分たちはお母さんが亡くなったときにまた考えればいいよ。そのほうが手続きも煩わしくなくて、負担も少ないでしょう?」くらいの軽い気持ちで言われているのだと思います。
また、配偶者特別控除を使うと1億6000万円まで相続税控除を受けることができますので、これを使っていったん相続税を回避しようと思うケースが散見されます。

ところが、一回相続放棄をするとその相続人は最初からいなかったということになります。つまり、第1順位の子がいないことになるので、第2順位へ、親がすでに亡くなっていれば第3順位のお父さんの兄弟姉妹が相続人となってしまいます。結局お母さんは、お父さんの兄弟姉妹と、そのなかで亡くなっている方がいればその代襲相続人である甥姪と遺産分割協議をしなければならないということになります。お母さんのためにと思ったことが逆効果になりかねません。お母さんがすべてを相続する場合でも、お子さんが皆納得しているのであれば、遺産分割協議でそのようにすればいいのです。安易な相続放棄は要注意です。

さてここで、大切なスケジュールの3カ月をクリアしたことになります。次の相続税の申告10カ月まではまだ間はありますが、財産もわかったことですので、課税対象となりそうかということを早めに確認しておきましょう。