相続税のリアル Part6
前回の相続税のリアルPart5では、マイナスの財産―負債、相続の承認および放棄をお伝えし、財産把握をどのようにすればよいかまでお話ししました。

相続税はいったいかかるのか?

財産が把握できた次のステップは、相続税を支払う必要が出てくるかを見ていきます。

相続税は、相続財産の課税価格から基礎控除額を差し引いた額に対してかかる税金です。つまり、相続財産の総額が基礎控除額より少なければ相続税はかからないし、その場合は申告も不要となります。

基礎控除額は、2015年1月1日以後に開始された相続では
・3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
となります。

ちなみに、2014年12月31日以前に開始された相続では
・5,000万円 + 1,000万円 × 法定相続人の数
と基礎控除額が現在より多かった(=相続税は少なかった)ので、2015年以降は増税となりました。

これが、首都圏に普通に一戸建てを所有している世帯は相続税がかかるようになる、という理由です。
令和3年2月1日に発生した相続で、相続人が配偶者と子2人の場合は、
・3,000万円 + 600万円 × 3人 = 4,800万円
ですので、相続財産の総額が4,800万を超えるかどうかで相続税がかかるか、申告が必要かを判断します。
また、相続税が0円だった場合には申告は不要なのでしょうか。

まず、相続税額控除が基礎控除以下の場合は申告は不要です。
しかし、相続税が0円だった場合にも申告が必要なケースがあります。課税価格が基礎控除以上であった場合にも、特例を適用することによって税額が0円になるケースは申告する必要があります。

例えば、配偶者が財産を相続する場合には前に述べたとおり「配偶者の税額軽減」という特例があり、1億6000万円か法定相続分のいずれか高い金額までは相続税がかかりません。しかし、この特例の適用を受けるには相続税申告が必要です。配偶者で税金がかからないからといって申告不要と考えていると、のちに税務署から「お尋ね」が入る可能性があります。

この他、「小規模宅地の特例」「納税猶予」などの適用を受ける場合も申告は必要ですので、注意が必要です。
もし、相続税の概算を計算して、これらの制度を使える要件を満たしていることを確認し、それによって相続税はかからないから申告は不要だと判断し、申告しないでいると大変です。これらの制度は、相続税の申告をすることによってはじめて使える制度なので、結果的に相続税がかからないからといって申告をしなかった場合、利用することができません。期限までに申告しないことによって加算税や延滞税がかかるばかりでなく、これらの軽減制度も使えなくなりますので、本税自体も高くなるということになります。

申告が必要か不要かを判断するのは、基礎控除以上の財産があるかどうかです。申告の要否を確認して申告が必要となった場合は、相続税に精通した税理士に相談することをおすすめします。

相続財産の評価

次に、調査した相続財産をリストアップして、総額を計算します。

預貯金等については金融機関から、相続が発生した日=被相続人の死亡日の残高証明書を入手します。葬儀費用などのために直前に大きな金額の引き出しをした場合は、現金として財産に加えます。株式等の金融資産やその他の動産などは評価額の算出方法がそれぞれ決められていますので、それに従って計算します。また残高証明書の発行には、金融機関所定の手数料がかかります。

土地は路線価方式や倍率方式で評価します。路線価等はインターネットで調べることができます。土地が道路に接しているか、間口が狭く奥行きが広い、不整形地であるなどの要因により補正率が決まっていますが、まずは大まかに計算し、相続財産の総額が基礎控除額ギリギリになるような場合は、税理士などの専門家に相談することをお勧めします。
実務上はこの不動産評価が、相続税評価の上で肝になるポイントです。税理士が10人いれば、10通りの相続税評価額になるとも言われている箇所です。これは、税理士がどの補正率を使うのか、アグレッシブに取る税理士なのか保守的な税理士なのかで、大きく異なる点です。

家屋は固定資産評価額をそのまま評価額とします。借地や借家、貸付地や貸家もそれぞれ計算方法が決まっています。

マイナスの財産、借金や未払いの税金や経費、葬儀費用なども計上し、差し引きします。
生命保険に加入していれば死亡保険金が、勤務先の制度によっては死亡退職金や企業年金等が、亡くなった後に支給される場合があります。これから行われる遺産分割協議において、分割対象となる相続財産のなかに通常これらは含まれません。生命保険は指定された受取人、死亡退職金等はその会社の規定により指定されている受取人固有の財産とされるからです(受取人が単に相続人と指定されている場合もしくは受取人の指定がない場合は、相続人全員に権利がありますので、分割対象の財産に含めます)。ただし、相続税を計算する際の相続財産にはこれらも含めることになっています。これらを「みなし相続財産」と言い、基礎控除とは別に非課税枠が、生命保険金、死亡退職金等それぞれに定められています。

生命保険を使って相続税を節税する代表的な方法は、生命保険の非課税枠を使うことです。例えば被相続人が死亡生命保険の契約者(保険金の支払者)、被保険者、そして受取人が配偶者、お子様という契約の場合、

・500万円×法定相続人の数

が相続税の非課税となります。例えば、残された方が配偶者、お子様2人の場合、合計1,500万円が相続税評価額から控除できます。

以上の手順で計算した相続財産の評価総額が基礎控除額より多いか少ないかで、相続税の申告が必要か不要か、が判断できます。しかし正確な評価は難しいところがありますので、相続税控除額のぎりぎりかな、というときは相続税に精通した税理士に相談されることを強くお勧めします。

みなし財産の生命保険で、気をつけるポイントがあります。生命保険を被相続人がかけていて亡くなった場合、本来相続人(たとえば配偶者)が受け取るべき保険金をそのまま掛金(保険料)として、その相続人を契約者にして新たな保険契約を締結する場合があります。そういった場合、相続人としては、保険金を現金では受け取ってはいないので相続財産にいれなくていいものと思って計上から漏らしてしまうことがあります。ところが現金として受け取っていなくても、それは保険金がおりたことになり、みなし財産として相続財産に計上すべきものとなります。保険金ですので大きな金額であることも多く、それを含むか含まないかで、相続税の申告が必要かどうか判断する必要が出てきます。故意に隠すつもりはなくても、追徴課税を課されることになりかねませんので、注意が必要です。