パーソナルファイナンス教育に求められること

若い時からお金の知識を持っていて決して損はない

日本は昔から、他の人とお金の話をすることがタブー視される傾向にありました。今も、まだまだオープンに話をするのが憚れる雰囲気があります。「武士は食わねど高楊枝」という文化が日本人のDNAにしみ込んでいるかもしれません。

しかし、最近ようやくパーソナルファイナンス教育が認知され、学校の社会科、家庭科、公民科の中で教育され始めました。文部科学省の新学習指導要領で小学校、中学校、高等学校のそれぞれで、カリキュラムの大枠が決められています。

5年ほど前にFP協会の方とお話した時にお聞きしたのは、費用、テキストも協会持ちでパーソナルファイナンスを無料で教えることを学校側に提案したとき、「そんなお金の事を教える時間があったら、英語、数学へ時間を割きます」と答えられたそうです。特に偏差値の高い学校ほどその傾向がみられたとのこと。

その時は、「お金を考えること、本当に大事なのに。若い時からお金のことを考える、知識を得ることが生きる力となるのに」と思い、日本の将来を悲観的に感じたものでした。

時代は変わり、小学校から金融経済教育・消費者教育が始まったことを考えると少しずつ良い方向に向かっていると感じています。

しかし、日本という同質性、平等性にこだわりすぎる社会ですと、多様な所得環境の家庭が混在するクラスで、お金の話をすることは、やりずらい面があるようです。

また、学校の先生ご自身にお金の知識がなかったり、まして自ら資産運用をしたことがないケースもあるでしょう。

キャッシュフローをプラスにする方法は、➀収入を増やす ②支出を減らす ③運用でお金を増やす の3つしかありません。②の分野は家庭科の授業にフィットするかもしれませんが、③は世の中の経済の動きや社会情勢が金融マーケットに影響を与えるので、「公共」で教えるのがよさそうです。

身近な例ですと、社会人になって初めて給与明細をもらっても、その見方が分からない方が大半だと思います。支給総額だけでなく、給与所得とは? 所得税、住民税、社会保険では健康保険、厚生年金、雇用保険ってどんなもの、といった基本的なことすら分からないのではないでしょうか。

特に、税金が一年でいったいいくら源泉徴収されているかすら知らない方が多いです。私は、この一例が日本人が税金の使い方に興味を持たない一因になっていると考えます。ひいては、選挙に行かず投票率が上がらない遠因ともいえるのではないでしょうか。

デジタル時代のお金のありかた

実生活の中で、紙幣や小銭を使って支払いをする機会は減少する一方です。クレジットカードやスマホ決済など、コロナ禍で人との接触機会をできるだけ避けるような生活様式が進み、キャッシュレス化が進んだわけです。

便利になる一方で、その副作用も当然出てきます。クレジットカードでのキャッシング、スマホゲームで安易に課金したり、FXや仮想通貨で高いレバレッジをかけた上で大きな損失を出すなど、リスクに直面するようなシステムに容易にアクセスできる環境に囲まれています。

今後メタバースといった仮想現実や、NFTといったブロックチェーンを使った世の中が一般的になる時代がそこまで来ています。インターネット勃興期においては、インターネット自体が世の中にどう影響を与えるか、はっきり見えていた人は限られていたでしょう。

日本人に限らず、人類がデジタル社会を生きる時代ですので、デジタルリテラシーもとても大切です。したがって ファイナンシャルリテラシー × デジタルリテラシー がより求められる時代になるでしょう。

生活していくのに重要な要素

生きていくうえで必要なものは、お金だけではありません。より良い生活をおくるためには、

お金×時間×人的資源×人間関係×知識・スキル×情報(情報過多の時代、より質の高い情報をどのように取っていくかが大切)×趣味、、、、

これらの要素の掛け算が、それぞれの人生を充実させることにつながります。お金はより良い人生をおくる一つの大きな要素ですが、お金もうけ自体が人生の目的ではないと思います。

しかしお金を蔑ろにすると、この掛け算の答えは小さくなります。より良い人生をおくるために、 これらの要素をバランスよく上げていくことが大切になることは、この式をご覧になるとご理解いただけるかと思います。

特に、人的資源とお金には重要な関係があります。例えばどんな仕事に従事しているかと、どのような資産運用をするかには重要な関連があります。

分かりやすい例を挙げますと、公務員の方は基本的に安定収入が継続して入るので、債券などで運用することはあまりそぐわないと思います。
このような方こそ、株式など多少のリスクを取ってより多くのリターンを得ていくことも一つの考え方です。

逆に、株式ディーラーなど証券会社で働いている方は、それこそ日経平均やダウ平均と給与は相関関係にあります。そういう方は、債券や不動産投資など、インカムゲイン中心の運用を行うのも一つの考えかと思います。

パーソナルファイナンスの目的は、ご自身がどのような人生を歩みたいのか、そして社会にどのような貢献をしていきたいのか、といった基本的かつ根本的な基盤を作るのが目的です。それを若いうちから教育として行っていくことに最大の意義があるように感じます。