円安が日本経済に与える悪影響を考える

円一時150円台、32年ぶり安値 マーケットの行方を緊急解説

最近の円安は、悪い円安です。それも、とても悪い円安です。

私自身、40年近く金融の世界でずっと仕事しており、1985年のプラザ合意、それをきっかけとしたバブル景気の始まりと1990年バブル崩壊、2001年ITバブルの崩壊、2008年リーマンショック、そして2020年コロナによる景気のボラタイルの激化などを経験してきましたが、今回の円安は、我々日本人の生活に大きな影響を与える予感がします。

そもそも、今回の景気減速のきっかけは、ロシアのウクライナ侵攻により、エネルギーや小麦といったインフラ物資の供給不足が原因の世界的インフレですが、日本の場合、それに加え、日本経済の構造的な弱点が景気悪化に拍車をかけることとなっています。

1990年から30年間、当初は「失われた10年」と言われていましたが、結局は「失われた30年」になってしまったのです。

皆さんは実感しませんか? 以前は、家電と言ったら日本のメーカーの独壇場、SONYのテレビ、ウォークマン、ナショナルや東芝、日立の白物家電、NECの携帯電話といった製品が世界を席巻していた時代がありました。

しかし、今は全く見る影もなく、中国のハイアール、韓国のサムソンなどにその座を奪われ、今、世界で通用するメーカーはトヨタ、ユニクロなど、ごく限られた企業になってしまったのです。

なぜ円安が進んだか

冒頭に引用した日経の解説によると、円安進行の理由は2つあると言っています。

①日米の金利差

②貿易赤字の進行

①に関しては、FRB(アメリカの中央銀行にあたる、連邦準備制度理事会)と日銀の金利に対する考え方の違いが大きく、FRBのパウウェル議長は、インフレを抑えるために金利をあげる政策を選択していますが、日銀は、インフレを抑えることよりも金融緩和を続けることのほうが重要とのスタンスを取っているので、金利差が拡大しています。

三村日本商工会議所会頭が、「今回の円安は、企業に多大な悪影響を与えている。そもそも今までの金融緩和が果たして効果があったのか、検証する必要がある」と記者会見で言っていましたが、私も全く同感です。

なぜ黒田総裁が、ここまで頑なに金融緩和を続けるのか、その理由ははっきりと説明されていません。

②の貿易赤字の進行ですが、昨日財務省から発表された、輸出額から輸入額を差し引いた4~9月の貿易収支統計は、四半期としては過去最悪の11兆円でした。この赤字額は比較可能な1979年以来最悪の数字だそうです。

要因は2つあり、1つにはエネルギーや食物価格そのものの値上がり、2つめは円安の影響で決済価格が上昇したことです。

purchasing power parity

こちらの表は、10月21日の日経1面の記事からの引用ですが、ここで注目したい項目は、円の購買力です。実質実効為替レートで、数値が高いほど円の力が高いことを意味します。

以前は、円安になると国内からの輸出が増え、海外で稼いだ外貨を円に換えることで円安にブレーキをかける仕組みでしたが、現在、日本のメーカーの生産拠点が海外に移転してしまったので、この仕組みが働かず、逆に円安が加速することとなっています。

1990年と比較すると、円の実力は約半分になっていることがこの表からわかります。

日本の経済構造は、食料自給率の低さとエネルギー自給率の低さが我々日本人の構造的な弱点となっています。生活していくうえで、食べ物、エネルギーは必須のものです。円安が進むとこの2つの価格が上がり、我々の生活にまともに影響を与えます。

食料自給率

Food-self-sufficiency

農林水産省のホームページによると、カロリーベースの食料自給率を見るときには、単位重量当たりのカロリーが高い、米、小麦や油脂類の影響が大きくなり、一方生産額ベースの自給率は、単価の高い畜産物や野菜、魚介類の影響が大きくなります。また、総じて輸入品より国産品の方が高いので、国内生産額は高くなり、結果として生産額ベースの自給率はカロリーベースより高くなります。これは、付加価値が高く高品質な農産物を生み出しているという日本の農林水産業の強みが反映されているともいえます。

しかし、我々が実際に食べているものを中心に考えると、カロリーベースで考える方が肌感覚として実感するところではないでしょうか。38%しか日本でまかなえないということは、残りの62%を輸入に頼っているということになりますので、円安の悪影響が価格高騰につながります。

(出典):経済産業省HP

エネルギー自給率は、先進国の中でも日本は低い%です。

12.1%しか自前で準備できない、逆に言うと、87.9%を海外からの輸入に頼っている訳です。

今回の円安で、毎月の電気代、ガス代、ガソリン代、灯油代の価格が値上がりしているのは、こういう現実があるからです。

賃金構造

さらに最近言われているのは、物価の上昇に賃金が追い付いていないという現象です。

日本の一人当たりGDPは、下記のグラフのように推移しています。

GDP

(出典 内閣府)

このグラフから読み取れるのは、1996年から自国通貨名目のGDPはほぼ横ばいで、成長率はほぼ0%を行き来している悲惨な現状です。

端的にいうと、日本人の稼ぐ力が全くなくなっているということです。その理由は様々あると思いますが、
①イノベーションが起こらない リスクを取らない国民性
②正規雇用から非正規雇用者が増え、将来の不安から結婚もできない、家も持てないといった経済を上昇させる要因がそがれた

の2つに集約されると考えます。

今後の為替動向

米ドル対円相場は10月21日には、150円にのり、この水準で動いています。今後の為替の動向は、誰にも予測できません。政府の為替介入で一時的に円高に振れるかもしれません。しかし個人的には、協調介入でないと為替介入効果は限定的でないかと考えています。

アメリカはバイデン大統領も強いドルは容認するとはっきり言っているので、長期的な円安の流れは変わらず、じりじりと継続していくような気がしています。

それは、黒田日銀総裁が日本の低金利政策を継続することを表明し続けるかぎり、円安が続くことを意味します。

すべての日本人にとって、今回の物価上昇は、とても厳しいものとなっています。特に年金で暮らしている方々にとっては、マクロ経済スライドによる年金の上昇は、現在の年金の状況からみると、ほとんどあり得ないと考えます。

ということで、今回の円安は長期的に見て、我々の生活に大きなダメージを与え続けるという悲観的な予想しか出てこないのです。